大阪信愛生命環境総合研究所(OSILES)

論文集「人と環境」(Human and Environment)

Vol. 14 (2021)


戦後日本の教育方法をめぐる課題と展望[論説]
深川 八郎 pp. 1-10 [要約][全文PDF]

小学校家庭科における食生活教育についての一考察[論説]
田中 順子 pp. 11-17 [要約][全文PDF]

表現(音楽)指導から音楽科指導への接続に関する一考察
—改訂)幼稚園教育要領及び小学校学習指導要領への対応—
[論文]
東前 克枝・奥田 昌代 pp. 19-34 [要約][全文PDF]

初等教育課程履修学生における食生活指針を用いた自己評価と食育への意識[資料]
田中 順子 pp. 35-44 [要約][全文PDF]

英語教育でのシラバス・デザインと学習指導要領に関する一考察[論文]
佐久 正秀 pp. 45-54 [要約][全文PDF]

子どもたちの情報活用能力の育成 −小学校教員へのインタビュー調査に基づく検討− [資料]
井内 伸栄 pp. 55-67 [要約][全文PDF]




戦後日本の教育方法をめぐる課題と展望

深川 八郎 pp. 1-10

わが国の学校教育史における教育の方法・技術研究を振り返った時、学校現場における 、事例研究に基づいた授業研究会は掛け替えのない遺産であり、宝である。 その質をめぐっては様々な論議がある。が、やはり質を深める視点から考えるなら 、教育の方法・技術を高めるうえで、実践者と研究者のコラボレーションの道を探るのが ベターな在り方であるように思う。 教師の世代交代が一挙に進み、地域や地域の学校で受け継がれてきた実践の厚み を引き継いでいくためにもそのことが重要な課題であると考える。
 また、特に初任期1年目は校外の研究会に出向いていく余裕はない。 しかし、少しゆとりが出来てきたなら、許す限り、 身近に「手本となる実践者」がいない時は、公開研究会に参加しながら、 すぐれた取り組みに学ぶことがその後の教員人生において重要となる。 そうすることによって、単なる「ハウツー的な教育技術」を身に付けるだけではなく、 「子ども観」・「授業観」を深め、そうすることで、自らの実践を実のあるものにして、 深化させていく筋道ができるのではないか。

キーワード:教育の方法・教育技術・子ども観・授業観・事例研究会・公開研究会・学級集団・集団づくり

Hachiro Fukagawa:
Challenges and Prospects for Studies on Postwar Japanese Educational Methods.
Human and Environment Vol. 14, 1-10 (2021)


小学校家庭科における食生活教育についての一考察

田中 順子 pp. 11-17

我が国は世界に先がけて超高齢化社会となり、健康的な長寿社会を構築すること は大きな課題となっている。今後、健康寿命と平均寿命との差をできるだけ縮小し 、健康で自立した生活を送ることができる期間を延ばすことが求められている 。しかし、国民の健康格差は世代を問わず広がりをみせ、 栄養面では潜在的栄養欠乏の一方で過剰栄養がみられ、 個人や集団においても様々な様相を示している 。また、環境面では気候変動が進み、CO2排出の削減や自然災害対策が現代社会の大きな課題になっている。 私たちの日々の生活行動が次世代のみならず、 地球生態系に大きな影響を与えることはいうまでもない。  このような状況の中で、「家族・家庭生活」「衣食住の生活」「消費生活・環境」の3分野で 教育を担う小学校家庭科の役割は非常に大きい。2017(平成29)年に改訂された学習指導要領では、 持続可能な社会の構築に向けての課題解決能力を育成することが謳われている。 食生活分野の教育では、特に栄養バランスを考えた食事や調理、 環境に配慮した食品利用などの消費者教育やSDGs(持続可能な開発目標)への学習を充実させ、 食生活をよりよくしようとする児童の意欲・資質・能力の育成を目指したい。

キ−ワ−ド:家庭科・小学校・食生活教育・学習指導要領・SDGs

Yoriko Tanaka:
A Study on Dietary Education in Elementary School Home Economics.
Human and Environment Vol. 14, 11-17 (2021)


表現(音楽)指導から音楽科指導への接続に関する一考察
—改訂)幼稚園教育要領及び小学校学習指導要領への対応—


東前 克枝・奥田 昌代 pp. 19-34

平成29年度の幼稚園教育要領、小学校学習指導要領改訂において、 「知識・技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」を三つの柱に再整理され、 細部にわたって明確化された。また、校種間の接続についても、 育成の引継ぎに関する理念から具体策に至るまで明文化された。 しかし、指導する内容、共通教材、共通事項に変更があるわけではないので、 指導法及び評価における変革が求められている。指導上の着目点を明らかにし、 それらに基づいて、幼稚園保育内容 表現(音楽)と小学校教科【音楽】の指導法に関する指導法についての研究を行い 、改訂)幼稚園教育要領及び小学校学習指導要領への対応方法について考察を行った。 幼小接続の視点に立った新カリキュラムを提示する。

キーワード:幼稚園教育要領・小学校学習指導要領・表現・音楽・幼小接続

Yoshie Tomae and Masayo Okuda:
A Study on the Connection between the Teaching of "Expression (Music)" and that of "Music"
−Approaches to the Revised Courses of Study for Kindergarten and Elementary School−.
Human and Environment Vol. 14, 19-34 (2021)


初等教育課程履修学生における食生活指針を用いた自己評価と 食育への意識

田中 順子 pp. 35-44

我が国における食生活指針は2000(平成12)年に策定され、一部改訂されたが長年にわたり広く用いられてきている。 その内容は生活の質(QOL)や、運動・食事内容・食文化・資源・環境・評価などの観点を網羅したものである 。初等教育課程の学生は将来、保育者や幼稚園教員・小学校教員として子どもの食育を担っていく人材であり 、食育の推進に関する知識やスキルを習得する必要がある。そこで、今後の教育の一助とするため、 この幅広い観点を網羅した食生活指針を用いて「子どもの食と栄養」の教科学修前と学修後において自己の食生活を評価させ、 さらに食育についての意識を調査した。 食生活指針を用いた評価は、総じてどの項目も肯定的であった。 学修前と学修後に有意な差が認められたのは、 「普段から体重を量り、食事量に気をつけましょう」「調理法が偏らないようにしましょう」 「食塩は控えめにし、脂肪は量と質を考えて」「栄養成分表示をみて、食品や外食を選ぶ習慣を身につけましょう 」「日本の食文化や地域の産物を活かし、郷土の味の継承を」「食材に関する知識や調理技術を身につけましょう」などの項目で、 学修後に「できている」という肯定的評価群が増加した。将来、保育者・教育者として大切にしたい項目で最も多かったのは、 「食事を楽しみましょう」であった。また、「食料資源を大切に、無駄や廃棄の少ない食生活を」「1日の食事リズムから健やかな生活リズムを」も多かった。
 子どもが生活と遊びの中で、食に関わる体験を積み重ね、食べることを楽しみ、食事を楽しみ合う子どもに成長していくことや、 「感謝の心」「食事リズムや生活リズムを整えること」を育てたいという意欲が推察された。

キーワード:食生活指針・初等教育履修課程・自己評価・食育意識

Yoriko Tanaka:
Self-evaluation Using Eating Habits Guidelines and Awareness for Dietary Education in the Students Taking the Primary Education Course.
Human and Environment Vol. 14, 35-44 (2021)


英語教育でのシラバス・デザインと学習指導要領に関する一考察

佐久 正秀 pp. 45-54

平成29年には新しい『小学校学習指導要領』と『中学校学習指導要領』が告示され、 平成30年には新しい『高等学校学習指導要領』が告示された。これらの新しい学習指導要領は、 子供たちの「生きる力」の大切さを謳い、その育成を目指す資質・能力を明確化することにより、 学校での授業の改善を目指している。また、カリキュラム・マネジメントを確立して教育活動の質を向上させ、 学習の効果の最大化を図ることも狙いとされている。今回の学習指導要領改訂により、 小学校では外国語が教科として教えられることになり、 小学校・中学校・高等学校での英語科教育の連携と一貫性の確保がさらに重要性を増している。 本稿ではこれらの変化を踏まえつつ、言語教育で過去に提唱されてきたシラバス・デザインを概観しながら、 それらと日本の英語科教育との関係を考察する。

キーワード:英語教育・教授法・学習指導要領・シラバス・学習者・コミュニケーション能力・カリキュラム

Masahide Sakyu:
A Study on Course of Study and Syllabus Design for the Teaching of English.
Human and Environment Vol. 14, 45-54 (2021)


子どもたちの情報活用能力の育成 −小学校教員へのインタビュー調査に基づく検討−

井内 伸栄 pp. 55-67

本研究では、小学校教員へのインタビューから新学習指導要領の全面実施後における 「情報活用能力」の育成の実態を捉えることを試みた。 その結果、A小学校におけるICT環境整備は児童1人1台端末の整備計画が進められており、 各教科や教育活動におけるICTの活用は学習単元・内容によって異なるものの 、内向的な子どもたちの発言意欲や参加意欲を高める可能性が示唆された。 さらに、教員が「情報活用能力」に対して共通理解を図り、 教科等横断的に確実に育む取り組みが一層求められるとともに、 指導機会の必要性がある「情報モラル」は高学年の学級会で指導されていた。 各教科における適切な学習場面で子どもたちの「情報活用能力」を確実に育むことの一つに、 教員のICT活用指導力の向上が求められていることから、 今後も教員研修会の機会の充実を組織的に推進していくことや 教員が時間にとらわれずに受講できるオンライン・オンデマンド型研修の充実が求められる。

キーワード:初等教育・学習指導要領・情報活用能力・ICT活用

Nobue Iuchi:
Development of Elementary School Student's Information Literacy Based on Interview Survey of Elementary School Teachers
Human and Environment Vol. 14, 55-67 (2021)


↑Top