大阪信愛生命環境総合研究所(OSILES)

ニュースレター「人と環境」

No.1 (2002)

2004.2.26

P1
環境総研発足にあたって
環境総研とその役割
P2
水環境とライフスタイル
P3
ISO14001認証取得の意義
P4
NPO/NGO団体紹介「日本国際ワークキャンプセンターNICE」

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OSIES News 人と環境 No.1 p.1 (2002)

環境総研発足にあたって

大阪信愛女学院短期大学学長 縄田 訷子

 本学は、人間教育の基本である、神を敬い、人を愛し、自然を大切にするキリストの教えに則って設立された学園です。それを根幹にして、現代社会によりよく応えるため、2001年4月人間環境学科を設立いたしました。そしてこの度、人間環境学科が目指す環境教育を通じての社会貢献、地域に根ざした環境教育の一層の推進を図るため、環境総合研究所を設立いたしました。色々な側面を持った環境間題。「豊かな環境観をもって、継続的、具体的な行動として、人が人らしく生きられる環境作り」を目指し、懸命に取り組んでおります。さらには、問題解決能力を養い、21世紀のよりよい国際社会の創造に寄与する女性の育成を目指して、施設・設備を有効に使って、地域の方々と共に研究を進めることができたらと願っております。
 多くの方々のご指導・ご協力を無にすることなく、さらに邁進して参りたいと存じます。今後とも、ご指導方よろしくお願い申し上げます。


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環境総研とその役割

環境総合研究所長 高井 明徳

 大阪信愛環境総合研究所(環境総研)は、昨年4月に新設されました人間環境学科が目指す21世紀環境の時代にふさわしい環境教育と社会貢献に歩調を合わせ、環境教育はもとより、環境保全の推進や環境にやさしい社会の実現へ向けて、とくに地域に根ざした諸活動をおこなうことを目的として発足しました。鶴見区に新学科のために建設された新学舎は情報ネットワークや専門研究などに関して最新の設備を整えていますが、教育だけでなく、広く地域社会への貢献に活用すべく、環境総研においても有効に活用していきたいと考えています。

 環境総研で行う事業を少し具体的にあげてみますと、①研究関係では、環境に関わる研究の推進、とくに大学、研究所、自治体、NPO法人、民間団体、企業等との共同プロジェクトの実施、研究会の開催、研究紀要刊行、②地域社会および地域諸機関との連携では、UNEP(国連環携計画)、大阪市立環境学習センター「生き生き地球館」、市役所、区役所、環境関係市民団体などとの連携や共同活動、③啓発活動・環境教育関係では、市民・区民などを対象とする講演会やセミナーの開催、環境教育の推進、出版(パンフレットなどを含む)、講師の派遣、情報誌の発行、環境ボランティアなどを予定しています。

 環境総研では自然環境部、環境文化部、環境教育部の3部門を設け、研究や諸活動の役割分担をしています。自然環境部では、環境汚染の実態や生態系への影響調査、環境文化部では、都市近郊緑地の保全(里山運動)など環境保全運動や環境に配慮したまちづくり、環境教育部では、環境にやさしいライフスタイルの実現などへ向けた啓発活動や環境マネジメントシステム(環境ISO)の研究と実施を担当しています。

 研究所といっても固苦しいところではなく、市民とともに環境を考えていく、開かれた情報センター的役割を目指しています。気軽に集まって勉強したり、情報や意見交換を行う、また、環境ボランティアをやってみる、といった具合に、市民のみなさんのご協力をいただきながら発展させていきたいと思っておりますのでよろしくお願い申し上げます。
(大阪信愛女学院短期大学人問環境学科長・教授・理学博士)

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OSIES News 人と環境 No.1 p.2 (2002)

水環境とライフスタイル

高井 明徳
大阪信愛女学院短期大学教授

 水道水が臭くてまずい、さらには発がん物質など有害物質が混入しているなどの水道水の悪化が大きな話題となって久しい。当時、安全でおいしい水を求めた浄水器やイオン整水器、またミネラルウォーターや各地の名水が多数販売され大きなブームとなった。1993年12月には水道水の水質基準が14年ぶりに改訂されたが、この頃が水に関する話題のピークであったように思う。翌年の夏は近年にない猛暑で、各地で水不足が続き、おいしい水どころか、その存在自体の重要性が認識させられた。このような状況の中、水への関心はかなり高まったが、問題の本質にまで関心が向けられたかどうかは疑問であった。
 現在の水環境汚染は生活との関わりが深く、現在のライフスタイルも再考しなければならない。ここでは水環境とライフスタイルについて身近な水道水の問題から出発して考えてみたい。

水環境の悪化とライフスタイル

 水道水の悪化の原因をたどれば、原水となる河川や湖沼の水質悪化にたどりつく。公害時代以後、水質はかなり改善されたが、新たな汚染状況が生じた。現在は公害時代のような産業排水からの有害化学物質の汚染は影をひそめ、生活排水、特に下水道設備が十分でない新興住宅地などからの生活排水の影響は大きい。さらに、湖沼や内湾等の閉鎖性水域では富栄養化が進み、水質はかなり悪化した。浄水場では、悪化した原水を短時間で浄化・消毒した水道水を大量に供給しなければならないが、元々そのような状況に対応したシステムではないので限界がある。発がん性物質のトリハロメタンもそのような状況で生じた。一方で原水を汚し、一方で必要以上に大量の水を消費する現在のライフスタイルが問題であることが認識されなければならない。最近、新たに高度浄水処理が導入されつつあるが、原水の汚染が解消されない限り根本的な解決とはならない。

水に対する意識と行動

 筆者らは、1993年京阪神地区に在住の女子学生を対象に行った飲料水に関する調査で、半数以上が水道水の味や臭いを不快に感じ(52%)、さらに多くの人が水道水の味や臭いに気を使い(70%)、水道水をそのまま飲むことに問題を感じ(77%)、水道水に敏感になっている状況が示された。飲料水に浄水器やイオン整水器の水や市販のミネラルウォーターを使用している人は60%を越え、水道水をそのまま利用している人の半数も今後の水道水の使用に何らかの検討を加えていた。日本の水が環境汚染で危険な状態になっており(64%)、そのために水の問題に対する意識を高める必要があると回答した人は多いが(41%)、日常、生活排水に注意を払っている人は少なかった。結論として、直接口にする飲料水には関心が高いが、悪化の原因には関心が低いということであった。最近、筆者らが行った環境意識調査でも環境問題にそれなりに関心を示すが、環境改善へ向けての行動は伴っておらず、社会的には環境問題が浸透しているように見えるが、実態はあまり変わっていないようである。

ライフスタイルを見直す

 最近まで誰もが日本は水が豊富で、飲料水としても問題がなく、水道の栓をひねればいくらでも使えるものと信じてきた。自然と関わり合って生活していた時代は、自然の微妙な変化も感じとることができたであろう。しかし、現在多くの人が都市および近郊に住み、自然と関わりのある生活はなくなり、自然と共に生きている実感もなくなっている。当然、水が貴重な資源であることの認識もなく、生活排水の影響も実感できない。とりあえず、まずい水を飲むことは避けたいという状況である。
 水の問題も含め環境問題の解決には、物質面の豊かさに埋もれたライフスタイルを根本的に変えなければならない。発がん物質や環境ホルモンなど多種多様な有害化学物質の汚染も無関係ではない。正しい知識も大切だが、まず身近なところで環境との関わりを体験することが必要であり、その結果知識が行動と結びつき主体的に行動できる姿勢が確立されていくのではないだろうか。

水環境の今後

 水質汚濁についてはBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)などの指標が用いられるが、生物を補助指標とした水環境の調査もなされている。たとえば、アマゴの棲む河川は1級水域で、フナの場合は5級水域である。これは直感的なわかりやすさに加え、実際に生物が棲む環境の総合的指標としても理解しやすいものである。また、発がん物質や環境ホルモンなどの有害化学物質の汚染についても、生物への影響を指標にすることが進みつつある。環境を化学的な数値や人間への影響を中心としたものから、生態系全体をいかに保護するかという観点で考えることは重要である。
 現在、大阪市内の河川を見てもただ水が流れるだけの護岸工事をした河川で、水はどす黒く魚もほとんど見かけない。今後、水質改善だけでなく、総合的な都市環境政策の中で、美しい水に魚など水生生物がすみ、人々の心を和ませるような、生態と調和した環境を実現してほしいと思う。また、わたしたち自身も環境との調和を考えたライフスタイルに意識して変えていく必要があるだろう。


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OSIES News 人と環境 No.1 p.3 (2002)

ISO14001認証取得の意義

足高 壱夫
大阪信愛女学院短期大学助教授

 最近、新聞を見ていると、広告の中に「ISO14001認証取得」といった言葉をよく目にしませんか。ISO14001とは国際標準化機構(International Standardization Organization)*1によって1996年9月に発行された環境関連の規格のことである。「環境ISO」とも呼ばれている。この認証取得件数は年々増加するとともに、工業・製造業部門だけではなくサービス業部門にも広がりをみせてきている(右表参照)。私が属する「教育・学校」をみても、この1年間で3倍に増加している。また、日本の組織は認証取得にとりわけ熱心なようである。世界のISO14001審査登録件数(2001年10月現在) をみると、世界全体で31,793件、そのうちで日本は7,155件で一位である。二位以下を大きく引き離している。二位は英国で2,500件、三位はドイツで2,400件、四位はスウェーデンで1,926件となっている*2。省エネや業務改善などの経費削減効果、環境汚染コストに対する未然防止対策、環境に配慮した商品やサービスを購入するといったグリーン購入の広がり、組織イメージの向上といったことが背景となっていよう。


 この規格は、「環境方針/計画(Plan)‐実施及び運用(Do)‐点検及び是正処置(Check)‐経営層による見直し(Action)」を循環的に実施するように構成されたマネイジメントシステムの規格となっている。したがって、具体的に配慮すべき環境や数値目標のようなものが示されているわけではない。いくつかの特徴をあげれば、まず①「自主性」である。日々の活動とそこから生み出される製品やサービスが環境にどのような負荷を与えているかといった現状把握と、これに関わる法的規制の遵守と、環境に配慮した独自のルールを盛り込んだ目的や目標がそれぞれの組織の判断で設定できる。②そのシステムがISO14001の規格に適合しているかが「第三者の審査」機関によって審査される。審査で適合と認められることで認証取得となる。しかしこれで終わりではなく、一年毎の定期審査と3年毎に更新審査が行われる。そこで③「継続的な改善」があげられる。システムが法制度や組織活動の変化あるいは技術革新に対応して継続的に改善されていなければ実効力がないからである。

 現在の環境問題は、汚染や破壊の地域限定性や加害者と被害者といった構図をもっていたこれまでの公害問題とは異なり、地球規模での汚染と破壊を、生産から消費までの私たちのあらゆる活動が引き起こしているものである。そこにみられるのは被害者でもあり加害者でもある私たちの存在である。しかも私たちの生活は多様化し、商品開発の過程も資源調達も複雑化とグローバル化している。このような中では、国家によるあるいは汚染源毎の法的規制には限界があるのは明らかである。

 環境I SOの利点は、まず組織活動の多様性と専門分化に対応できる点である。なぜならば、自らが自らの活動を見直し、環境保全の対策を講じるからである。そしてその作業が特定の部署の人たちだけが考えるのではなく、すべての構成員の権限と責任においてシステムが構築されるという点から、環境問題への啓発活動としての波及効果も大きい。さらに、組織の外部者である市民であっても、グリーン購入という方法で環境負荷の大きい組織に働きかけることができるメリットもある。そしてこの過程を通じて、環境負荷の高い社会構造を転換させ、私たち自身の生活スタイルを変えていくことができるのである。

 このようなことを考えると、教育機関でのISO取得が近年進んでいることをさきに触れたが、これはたいへん意義深いことだと思う。本学でも計画はあるがまだ取得していないが、昨秋の短大祭では「エコ・ビンゴ」というイベントを学生たちは企画した。ビンゴゲームの景品に「環境にやさいしい商品」を使い、グリーン購入についての啓発を行おうとしたものであった。教育機関による積極的な取り組みを期待したい。


*1 国際標準化機構とは、「商品とサービスの国際的な交換を容易にし、知識、科学、技術、経済に関する活動において、国際的な交流を助長するため、国際的な規模の標準化とこれに関するさまざまな活動を発展、促進すること」を目的に1947年に設立された非政府の国際機関である。各国の代表的な規格化あるいは標準化を図る機関が1機関ずつ加盟でき、1998年で128カ機関(国)が加盟している。
*2 ドイツ環境庁のReinhard Peglau氏調べ。http://www.ecology.or.jp/isoworld/より抜粋。

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OSIES News 人と環境 No.1 p.4 (2002)

環境保全活動を行うNPO・NGOやボランティア団体を紹介するコーナー

平和で、公正で、緑豊かな新しい地球社会を開拓する人材を育てる

「日本国際ワークキャンプセンター(ナイス NICE)」

 第一回は、この春に開設された大阪NPOプラザに関西オフィスを開く日本国際ワークキャンプセンターの活動を紹介します。

 NICEは1990年に結成(本部・東京)され、それぞれの地域社会で活動しているNPOやボランティア団体あるいは行政と共催で国際ワークキャンプを企画・運営したり、海外の国際ワークキャンプに日本人を派遣する活動を行うNGOである。ユネスコが設立した国際ボランティア活動調整委員会(CCIVS)に加盟し、1998年からはその副代表のほか、アジア‐ボランティア発展ネットワーク(NVDA)の代表でもある。会員数は907名で、うち女性が77%と女性が活躍する団体である(1999年1月現在)。

 国際ワークキャンプとは、「世界中の若者が2~3週間一緒に生活をしながら、地域の人達と環境や福祉のボランティアを行うプログラム」である。ホームレスの支援から福祉施設への出前クリスマス、荒れた森や畑の再生、砂漠化した荒野に植林、ウミガメの保護などのさまざまなプログラムが実施されている。2001年度には90カ国・約2400ヶ所で開催されている。このような活動の始まりは、第1次世界大戦直後の1920年に「お互いの理解不足でいかに多くの血が流されたか」ということを痛感したドイツとフランスの若者が一緒に農地を再建したことによるとされている。

 本学院が所有する生駒山麓の山林でも、1999年以来、「飯盛・北条の里山を保全する会」との共催で国際ワークキャンプが開催されている。昨年度は、8月1日~13日にかけて、韓国・ユーゴスラビア・ドイツからそれぞれ2名、ベルギーから1名、それに日本の3名が山小屋に泊まり込んで里山保全運動に汗を流した。

 国内の国際ワークキャンプは主に夏に開催されるが、そのシーズン前には参加予定者がワークキャンプや週末ワークの活動地に集まってプレキャンプ(1泊2日)をおこなっている。実際にワークキャンプがどんなものなのかをNICE事務局の者や経験者を交え、意見交換をする場としている。また、ワークキャンプのときだけでなく、共催する各地域の団体の活動に、定期的にかかわっていこうと考えて、週末ワークも行われている。例えば関西では、「飯盛・北条の里山を保全する会(大東市)」(右写真)や「富田林の自然を守る会」での里山保全活動がある。都会の喧騒を離れ、自然の中で楽しみながら、自分のペースでワークをし、作業を終える頃には心地よい疲労感を楽しんでいるようである。他にも、捨てられた動物たちの世話を行う週末ワークが能勢で始まった。さらに、最近は、会員同士で興味ある分野について特化して活動している人たちも増えてきている。これら独自の活動を「チーム」と呼んでいて、関東ではアフリカのチャリティコンサートをする「アフリカチーム」や、小学校の総合学習の時間で授業をする「なんちゃーチーム」、アジアの児童買春についてのワークショップをしながらブレスレットを編んで、その売上金を児童保護施設に寄付する「ブレスレットチーム」などがある。

 ワークキャンプ参加者のうちで関西一円に住んでいる者たちで作るネットワーク組織として関西NICEがある。約100名前後の会員がいるが、これまでは事務所がなく、週末ワークが主な活動の場となっていた。この春、大阪市福島区にできた大阪NPOプラザに待望のNICE関西オフィスが開設される。ここを基地に若い力がさまざまなフィールドへと羽ばたいていくことだろう。関西は面白くなりそうである。
(詳しくはNICEのホームページhttp://nice.gr.jp/)
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