大阪信愛生命環境総合研究所(OSILES)

OSIES News 人と環境

No.5 (2006)


P1
環境の時代を考える-昆虫の世界から見た環境-
P2
2005年度環境総研講座、高齢期の食生活を考える
P3
<人と環境を考える-介護の立場より>-人と人との関わり、そしてその環境-
P4
NPO/NGO団体紹介「みのお山自然の会」
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OSIES News 人と環境 No.5 p.1 (2006)

環境の時代を考える

大阪信愛女学院短期大学講師・中学部教頭 松田 潔

昆虫の世界から見た環境-なにわの虫の博物誌-



 2年前の夏の昼下がり、一匹の黒い大形のアゲハチョウが梅田の「かっぱ横丁」の前を飛んでいた。 このチョウは尾状突起を持たず、後翅が白く見えたので、ナガサキアゲハの雌ではないかと思った。 その数日後、今度は阪急川西能勢口駅のプラットホームで、やはり黒いアゲハチョウが飛んでいた。 やや小ぶりであったが、このチョウも尾状突起を持たないところからナガサキアゲハの雄と思われた。 もしそうなら、以前は九州以南にしか分布していなかった南方系のアゲハチョウが、 北上して東に分布を拡げ、私のような門外漢でも気がつくほど関西地方で 普通なチョウになってしまったということだ。
 そういえば少年の頃、大阪市内で夏に普通に見かけるセミは、ニイニイゼミとアブラゼミであった。 その頃、クマゼミは珍しかった。このセミは大形で、体が黒く、透明の翅、緑色の翅脈を持っている。 このようなクマゼミがセンダンの木やアオギリの幹にとまって、「ジャーン、ジャーン」という 独特の大きな声で鳴くのを聞くと、捕虫網と虫かごをもった私たちは心をときめかしたものである。 それが今や大阪市内のどの公園でも、夏になるとやかましいほどの鳴声でこのクマゼミが大合唱をする。 クスノキやケヤキからナンキンハゼやヒマラヤスギまで木の種類を問わず、どの木にも鈴なりになっている。 このセミも熱帯系の昆虫で、仲間が東南アジアに広く分布している。 このように身近な虫を観察しているだけでも、地球の温暖化が進んでいることがひしひしと実感される。 私たちも可能な範囲で環境に優しい生活を心がけたいものである。
 さて、夏の風物詩といえばホタルである。大阪は水の都といわれるので、 ホタルが生息する絶好の環境のように思われる。しかし現実には大阪市内の河川は水質汚染が進み、 水生昆虫であるホタルの幼虫の餌になるカワニナやモノアラガイなどの淡水産の巻貝も繁殖が難しい状態である。 また、護岸工事によって土手がコンクリートで固められ、蛹化する場所がなくなった。 街中も明るくホタルの雌雄が光の交信によって配偶行動をとることも難しくなっている。 ただ、堺市の浄水場では下水を処理した水のなかでゲンジボタルが飼育され、 季節になると近隣の人たちがホタル狩を楽しまれているようである。 しかし大阪市や堺市内にホタルの生息する自然環境がまだ残っているのか、私は知らない。
   子どもの頃、夏になると堺に住む伯父がゲンジボタルを虫かごに入れて持って来てくれたのを覚えている。 戦前は船場の堀割にヘイケボタルが生息し、夏の宵、天満橋の料亭から淀川の支流である大川を眺めると ホタルが飛んでいるのを観賞できたようである。
以前、信愛中学の環境研究部の生徒が、寝屋川と城北川、大川の水質を比色計で調査したことがある。 大川は他の2つの川と比べて水質が良かったので、もしかするとホタルが生息しているかもしれない。
   池田の「人と自然の会」から出版された「池田市にすむ人里のホタル」という冊子を見ると、 池田市内では、まだ広い地域にゲンジボタルとヘイケボタル,ヒメボタルが分布しているようである。 会員の人たちはホタルの調査、観察会、飼育活動に熱心に取り組み、地域の環境保全活動にも たずさわっておられる。池田市の井口堂付近では、住宅地の水路に細々とした形でヘイケボタルが生息している。 都市化の中で虫たちも生き延びるために精一杯の生活を続けているようだ。
 ところで、旭区の城北公園にはアリスアトキリゴミムシという珍しい甲虫がいる。 小形のオサムシの仲間で、公園内のアリの巣の近くで発見される。 大阪市内ではおそらくここにだけに生息しているのだろう。 生息環境の悪化でオオサカアオゴミムシのように市内ですでに絶滅した虫もいれば、 ブタクサハムシのように近年北アメリカから入ってきて定着した虫もいる。 時代とともに変化する環境の影響を受けて、大阪に棲む虫たちにも栄枯盛衰が見られる。 最近校庭でメスグロヒョウモンチョウがよく見られるようになった。 なぜだろうか、不思議だなという素朴な疑問を大切に、昆虫の世界を楽しみながら地球環境について 考えることができたらと思う。

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OSIES News 人と環境 No.5 p.2 (2006)

2005年度環境総研講座

 2005年度大阪信愛女学院短期大学公開講座(城東区、鶴見区、旭区共催、都島区後援)の内、 環境総研講座として3回の公開講座が開催されました。第1回(第12回環境総研講座)は、 大阪府立文化情報センター共催事業として、6月23日(木)に大阪府立文化情報センターに おいて開催され、フェアトレード・サマサマ事務局長 小吹岳志氏により 「フェアトレードって何?-ビルマ・スリランカ・インドなど7カ国の事例をもとに-」の題目で ご講演いただきました。 第2回と第3回(第13・14回講座)は、「高齢期の食生活を考える」をテーマに本学で開催され、 9月10日(土)は大阪信愛女学院短期大学教授 田中順子氏により、 「老化を遅らせる毎日の食事のポイント」の題目でご講演いただき、 9月17日(土)に元大阪信愛女学院短期大学教授 渡部由美氏、同教授 田中順子氏 により、 「高齢者向けソフト食づくり実習」として調理室で実習が行われました。 実際に作ってみることで、講演内容を実際に体験・実感することが出来たと好評でした。 第1回の講演内容については、本誌前号に講演に関連した内容のご寄稿いただきましたので、 ここでは第2回の講演内容について紹介します。

高齢期の食生活を考える~老化を遅らせる毎日の食事~

大阪信愛女学院短期大学教授 田中 順子

 健康でいきいきとした高齢期を過ごすことは、誰しもの願いです。老化に伴って、 人の体にはさまざまな障害が起り、それが食欲減退、ひいては栄養不足をおこします。 高齢者は予備力が低下し、わずかな低栄養でも大きな病気につながることがあります。
 高齢期の食生活にはどのような問題があるのでしょうか。咀嚼や嚥下が困難になっても、 おいしく食べるためにはどのように工夫すればよいのでしょうか。 高齢者のためのソフト食作りテクニックを紹介しましょう。
①加齢に伴う身体機能の低下
高齢になると感覚器の機能が低下し、味覚では特に塩味を感じにくくなります。 旨味をきかすと塩味を感じにくくてもおいしく食べることができます。 また、視覚や触覚も鈍くなり、アルツハイマー病では臭いが分からなくなります。 口の渇きも感じにくくなり、咀嚼や嚥下機能が低下しますので、水分の補給が大切です。
②高齢者の摂食状態悪化の要因
脳卒中などの後遺症で口や喉の機能に麻痺があると、咀嚼・嚥下が困難になります。 また、歯の欠損、舌の筋力の低下、唾液不足でも咀嚼・嚥下が困難になります。 住環境やヘルパーなど周囲の人の変化に順応しにくく、食べ馴れないものには拒否反応を示すことがあります。 食欲は体調や精神状態に大きく影響される傾向があります。
③高齢期の低栄養の悪循環
食欲がなく食べにくい状態が続くと、たちまち栄養不足となり、免疫力が低下し、病気がちになります。 高齢者世帯や一人暮らしの高齢者では、食事作りが困難なため悪循環になりやすく、 介護が必要になったり、症状が悪化したりしやすいのです。 栄養バランスの良い一汁三菜(主食、主菜、副菜、副々菜、汁物のある献立)の食事を、 楽しくおいしく食べることができるよう、さまざまな支援が必要です。
④食べにくい食べ物
⑤咀嚼・嚥下困難者への対応
従来は食品を刻む「刻み食」やミキサーにかける「ミキサー食」で対応していましたが、 みためも悪く、誤嚥をおこすこともありました。そこで、料理の形態を保持しつつ、 噛みやすく、飲み込みやすいソフト食の開発・普及がなされるようになりました。
⑥高齢者ソフト食作り基本テクニック
 楽しく、おいしく食べることは「生きる喜び」であり、心と体を健全に保ちます。 料理は脳の老化を防ぐともいわれています。それぞれの身体状況や好みに合わせた料理が作れるよう、 ソフト食作りテクニックを参考にして、料理作りを楽しみましょう。

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OSIES News 人と環境 No.5 p.3 (2006)

<人と環境を考える-介護の現場より>

人と人との関わり、そしてその環境


瀬川 雅和
はじめに
 福祉の現場に入って早10年になろうとしています。私は41歳の時にこの福祉現場で働くことになりました。 ソーシャルワーカー(相談援助職) として3年、現場全体の統括者として6年になります。 その間明確に「自分が目指す福祉は!」といったものは持ち得ませんでした。 ただ介護保険制度が始まった翌年に、特別養護老人ホームの生活相談員のある若い青年に出会い、 目の前に見えるものが変わり、人との関わりでこんなにも見えるものが変わるんだということを強く感じました。 それまでの私は福祉サービスそのものが、今まで行なわれてきた形を只漠然と踏襲していけばよいという、 「かたち」のみに捉われていたように思います。 そこにある当事者の気持ちや人間として生きることの意味を曖昧に考えていました。 人が人と関わることの重要性、そこに社会と言うものが存在し、 その関わりを良好なものにすること、 すなわちコミュニケーションが如何に大切かと言うことを思い知らされました。 1.介護とは
 人と人とが関わることからスタートしなければ、何も生まれない! 介護という言葉に「される方」「する方」両方のイメージが浮かぶと思いますが、 介護とは受ける方にも、提供する方にもその関係性の中身が大切であることを今さらに感じています。 昭和39年に老人福祉法が改正され「特別養護老人ホーム」設置されました。 それまでは、貧困世帯の高齢者を救済する為のいわゆる「養老院」、 すなわち養護老人ホームしかなかったのが、寝たきり人口の増加から、 所得のある人でも入所できる、頭に「特別」をつけた養護老人ホームができたわけです。 そのハードやソフトは医療ケアの延長として捉えられたものですから中味は生活するところにも拘らず、 病院のようなハード環境でした。  また、行なわれるケアが今では「医療モデル」と称されるマニュアル的な介護でした。 私は全くそれを否定するつもりはありませんが、そこには抜け落ちていた大切なことがあるように思います。 それが「人と人とが関わることからスタートする」ということだと思います。 「利用者に関わり」「その人の心を聴き」、それをケアの基本としていく。 その事が後回しにされたため、多くの施設では日課やマニュアルが先行し、 新しく赴任した職員さんも利用者と関わる事よりも先にマニュアルや日課を覚えなければいけなかった。 何かそこに「介護の文化」を創れなかった(いまだに創れていないと思いますが) 要因があるように思えてなりません。 2.人と関わるハード環境とソフト環境 介護が人と人とが関わることから始まるとしたら、前述した病院のようなハード環境で「その人の心を聴く」 ことができるでしょうか?マニュアルや日課が先行し、それに追われるソフト環境で「その人の心を聴く」 ことができるでしょうか?このハード環境とソフト環境は別々なものではなく、両方が揃ってこそ良好な人間関係が築けるように思います。しかし、私たち介護を職としている者は、その利用者と自分が24時間365日生活をしているわけではありません。「その人の心を聴く」という事は、その人の周りにいる人々とその人の情報を共有しなければ生活すべてに思いが伝わりません。家族・親戚・知人を含め、最低自分と共に働く職員とのチームワークが必要となってきます。それがソフト環境における潤滑油になるのではないでしょうか。 3.チームの責任と個人の責任  「今日の自分の仕事(業務)はこれとあれ・・・」といったように自分の仕事(業務)を決め込んで しまっては周りが見えなくなってしまいます。チームとして「その人の心を聴いて」ケアを実践していく ことが重要で、何か失敗すれば、また事故が起これば、当事者個人の責任ではなく、その情報が共有できていなかったチームの責任として捉え、 そこにある個人の責任はその原因となる情報を他のチーム員に提供できなかった情報共有のシステム(そういったソフト環境)の問題として考えられないでしょうか?個人の責任は自分が知りえた情報を他のチーム員と共有できるよう発信すること、たとえ、自分が失敗した時や間違った考えを持ったことに気づいた時にも情報発信していく勇気が必要だと思います。もし、この事が行なわれていたら、あの石川県のグループホームにおける虐待致死事件は起こらなかったのではと思うのは私だけではないでしょう。 おわりに  介護現場におけるハード環境(建物や設備・備品類のレイアウトも考えられた環境)とソフト環境(介護の現場におけるケアのシステムや人的資源、職員の介護に対する考え方にも及ぶ)は目の前にいる人の生活と人生を支える事に屈指されるものにならねばいけません。それには「その人の心を聴く」ことができなければ始まりません。また、それにはハード環境・ソフト環境が必要なのです。鶏が先か卵が咲きかの議論となってしまいますが、まず、「良好な人間関係を築く為に、関わることから始める事」しかないように思います。この事に立ち返ると、  福祉というのは「いかに良好な人間関係を築くか?」という課題が真っ先にあるように思えてなりません。  地域社会の福祉が今盛んに言われています。法律用語にもなりました。  そんな地域福祉もまずは、「人と人との関わり」から始めては如何でしょうか?何かが見えてくると思います・・・。 (社会福祉法人至善会 蒲生の家 施設長)

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OSIES News 人と環境 No.5 p.4 (2006)

環境保全活動を行うNPO・NGOやボランティア団体を紹介するコーナー

自然観察から始まる自然保護 みのお山自然の会

 みのお山自然の会は、みのお山自然観察会を開催しています。自然観察会の活動を通じて、 自然のすばらしさや大切さを感じていただく事をボランティア活動で広げています。 多くの市民の皆さんが自然を大切に思ってくださったり、楽しさを知っていただけたら自然を守る事に 繋がると考えています。
 また、地域の自然保護、環境調査、やまちづくりの活動も行っています。 今の自然環境をより良くして、次の世代に確実に引き継ぐ事を目標に経済優先の社会から環境と 共存できる持続可能な社会へと仕組みを変えていきたいと活動しています。
 身近な自然の中でじっくり自然体験・自然観察しています。いままで気にも留めずに 眺めていた自然が楽しく感じられます。 身近な自然を発見する喜びから、この素晴らしい自然を次の世代に伝えたいと思える 仲間がたくさん増えてくださることを願ってボランティア活動しています。
 すばらしい自然って、北海道や信州のような遠くへ行かなければ体験できないのでしょうか? 意外なところにもすばらしい自然があります。ご近所の自然発見して見ませんか?
 自然観察会って、なんだか難しそうな草花の名前を覚えたり、小さな特徴から種別を 見分けたりする頭の痛くなるようなお勉強会ではありません。 耳を澄ませば、鳥の声や風のそよぐ音から自然が感じられます。 葉っぱを2つに折ってにおってみたら甘い香りがしたり、 木肌をさわってみたらツルツルしてたりコルクのようにフワフワしてたり、 五感を使ってからだ全体で自然を感じてみませんか。 身近なところに意外な自然のドラマや感動を見つけることが出来るかもしれません。
 自然と私たち人間の関係を考えるきっかけにしていただけたらと願っています。 身近な自然を見続けることで愛着ある自分の大切な自然観察フィールドをもってみませんか。 大自然へ出かけて行かなくても、ご近所の公園や団地の中の緑地でも楽しい自然を感じることが出来ます。
みのお山自然の会 本多 孝(ipnetjapan@yahoo.co.jp)