大阪信愛生命環境総合研究所(OSILES)

OSIES News 人と環境

No.7 (2008)



P1
環境の時代を考える-ライフスタイルと健康 
P2-P3
園芸療法の世界-心と庭のセルフケア
2007年度環境総研公開講座報告 
P4
NPO/NGO団体紹介 『シギ・チドリの楽園づくり』にむけて
-NPO法人南港ウェットランドグループ
 
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OSIES News 人と環境 No.6 p.1 (2007)

環境の時代を考える

看護師 古谷スミ子

ライフスタイルと健康



2007年度の総理府の集計では日本の総人口の20.8%が65歳以上の高齢者であると発表された。 現在の日本は未曾有の高齢社会に入っている。 高齢者の生活は個人差が大きく、ライフスタイルがその人の今の生活をほぼ反映している。 QOL(Quality of Life:生活の質)とライフスタイルとを関連づけてみると、 ライフスタイルのよい人はQOLも高い。

健康の目標とQOL

デュポスは「人間がいちばん望む健康は、 必ずしも身体的活力と健康感にあふれた状態ではなく、長寿を与えるものでない。 それは、自分のために作った目標の到達にいちばん適した状態である」と述べている。 健康な人はより質の高い健康を求めてQOLを向上させる生き方、 健康に障害がある人はその健康レベルに応じて達成可能なより健康的な生き方が重要である。

一方、高齢社会に望ましい健康の保持・増進を図る制度や政策も必要である。 わが国は2000年4月より健康づくり5年計画「ゴールドプラン21」をスタートさせ、 地域における介護サービス基盤の整備、介護予防、生活支援などを推進する。 高齢者の尊厳の確保および自立支援を図り、 高齢者が健康で生きがいをもって社会参加できる社会を作っていこうとするものである。

保険事業については、一次予防に重点を置いた対策を進め、壮年期死亡の減少、 健康寿命の延長を図ることを目的に、 生活習慣病対策とその原因となる生活習慣改善対策に力点が置かれている。 つまり生命の延長だけではなく、QOLを重視し、 生涯にわたる健康づくりに視点が置かれている。

健康づくりを支援する健康教育

WHOは1978年「すべての人々に健康を」をスローガンとして、 プライマリーヘルスケアーに関した国際会議を開催し、 アルマ・アタ宣言をまとめた。 その第1番目に健康教育を位置づけている。 その5年後、新しい健康づくりの方法の考え方に、 住民の自主的で主体的な参加と役割について示した。

大切なことは、本人が意志決定し選択したことに専門家が価値を含めて判定、 評価しないことである。 「加齢の促進をおくらせる」「病気とじょうずに付き合える」ような 支援が必要である。 たとえば高齢者の喫煙や飲酒は、一方的画一的指導ではなく、 優先性を考え、実行可能なものを当事者に選択させると共に、 健康に好ましい生活習慣の環境を整えることが重要である。

現在、わが国では「健康日本21」で環境を大切にするヘルスプロモーションが 提示されている。 人間は社会的な存在であり一人では生きていけない。 人が相互に支えあう地域ネットワークの健康づくりへの活用が望まれる。

具体的行動目標の設定を生きる

健康的な生活を送るためには毎日の規則正しい生活が大切である。 しかし「規則正しく過ごす」ことの大切さは十分に理解できても 実行できるか否かは別である。 生きることの楽しみも味わいつつ、心身のバランスが保持できる 健康的な生活の設定が必要である。

高齢者にとって日常生活動作が運動であり、リハビリテーションである。 日々の生活に少し留意するだけで病気の一次予防となり、 その結果が長寿につながる。 「健康日本21」では健康教育目標の一つとして8020運動 (生涯にわたり(80歳を越えても)自分の歯を20歯以上保つ)を推奨している。 80歳を対象とした統計分析等で、歯の喪失が少なく、よく噛めている者は 生活の質および活動能力が高く、運動・視聴覚機能に優れていることが、 また、要介護者の調査でも、口腔衛生状態や咀嚼能力の改善が、 誤嚥性肺炎の減少や日常生活の改善に有効であることが示されている。 自分の歯を保ち、咀嚼をよくし、口腔内を清浄にすることは、 先に述べた日常の一次予防の一つである。

しかし、人間は弱く一人の力は小さい。 当事者だけの問題とせず、当事者を含む周辺の人々も有益になるような 解決策が必要である。 地域ネットワークを活用した支援体制や努力して頑張ろうとする当事者に 発生するストレスを除くためのストレスマネージメント教育や カウンセリング体制の整備も必要であろう。
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OSIES News 人と環境 No.6 p.2 (2007)

園芸療法の世界

心と庭のセルフケア

笑福庭代表 園芸療法士 寺田 裕美子

◆潜在能力

 現代の私たちの生活は、世の中の流れやニーズにより新しい変化に とまどいながらも順応していく力を持っています。 と同時に基本的な人間の生活はずっと変わらないということにも幾度となく気付かされます。
 今日の私たちの関心ごとの一つに、健康や美容があります。 「このままじゃいけない!」「あなたはそれでいいのですか?」 と毎年のように新しい切り口で身体のあらゆる各所をダメ出しされます。 「そういえば、ちょっと気になるかな・・」とかなんとか思っているうちに 健康器具や食品を選び、ウォーキング、フィットネスクラブ、通院、美容、 人間ドックと健康や美容に関連した物事が、 時間も金銭面でも生活の中の大きな部分をしめてきているという状況は めずらしくありません。
 また、衣食住以外の生活の時間の過ごし方が多様になり、 私たちは自分自身の興味や家族、健康、経済状況など個々に選別して 随時変化しながら多様に適応して生活していきます。
 時代の変化に巧みに乗り切る。その代償としての歪みは心の病となって現れ、 その発生源は、どうやら、私たちの生活に必要な衣食住の問題だけでなく 役割、人・友(家族)や生きる力そのものの喪失感が鍵になっているようです。 病気になってしまう前に自分自身で心と身体を相互に働きかけ、 心身共に健康を維持・予防する工夫や周辺の環境や人の変化を気付き対応する力を 日常生活に取り入れることがこの時代の変化に適応していくキーワードになってきました。

◆庭の手入れ

 農園芸活動が健康予防につながるという研究報告が発表されるようになりました。 農園芸作業にある運動効果、収穫などによる達成感、満足感、植物に関わる者同士の コミュニケーションが心身の健康維持・予防に役立つというものです。 実際に全国の各地のリハビリや老人保健施設、市民活動に意識して 取り入れられ始めています。
 植物と関わる庭の手入れにおいてもう一つ注目したい健康予防につながる視点として、 「変化に気付く能力」の活性です。庭の手入れといっても庭師が伝統な透かし技術を 巧みにあやつり半永久的に木を魅せながら育てていくような手入れから、草を引いたり、 枯れ花を摘んだりする日常的な生活の中で誰もが行える手入れまで広く幅があります。 どのような手入れであろうと植物は、正直で適切な手入れにはのびのびと良く育ち、 適切でないと病気になったり枯れてしまったりと如実に姿に現れます。 葉の少し張りがなくなってきている。花が小さくなってきた。蕾に虫がついた。毎日、庭の様子に気を向けて見ると様々に変化していることに気付きます。いち早くその変化メッセージを見つけて対応していくことが植物をうまく育てるコツでもあります。植物の変化を追い、栽培本や詳しい人に聞いてみるのもいいでしょう。 「静かな変化を見つける力」「状況を見分けて判断し行動する力」 頭を使い周囲の環境とのバランスや影響を考え予測しながら同時に身体を動かす。 時には地球規模の環境の変化や関係性とも原因を照らし合わせながら。 また、植物が持つ潜在能力との駆け引きも重要です。植物自身自分で生きる力を もっていますので、その力を奪うことなくサポートする。お世話しすぎない。 少しサポートして様子を見る。 あまり神経質にならず、植物そのものが持つ生きる力を確認しながら ・・・駆け引きのコツをつかんで、 最小限の手間で身体と頭を動かしながら庭を美しく保つ一挙両得を目指します。
 ご隠居さんの娯楽の庭いじりには実はこんな世界が繰り広げられていたとは、 「庭の手入れ」から得る効果に再認識と再発見です。

2007年度環境総研講座

 2007年度大阪信愛女学院短期大学公開講座のうち、環境総研講座として3回の公開講座が開催されました。

第1回(第18回環境総研講座)

6月9日(土)、城東区・鶴見区・旭区共催、都島区後援事業として、 本学鶴見学舎において、環境計画コンサルタントの野見山由紀子氏をお招きし、 「花と緑のまちづくりが目指すもの」と題してお話をいただきました。 近年、わが国の都市やまちでは市民の参加を募り、 「花・緑」に着目したまちづくりを推進するところが多くみられます。 都市やまちにおける「花・緑」が果たす効果とその目的を、多方面からお話いただきました。

第2回(第19回環境総研講座)

6月21日(土)、大阪府立文化情報センター共催事業として 同センターのさいかくホールにおいて、菜の花プロジェクトみのおの坂本洋氏をお招きし、 「天ぷら油で車が走る?菜の花プロジェクトの取り組み」と題してお話をいただきました。 ナタネを栽培し、菜の花を愛で、収穫したナタネ油で天ぷらを楽しみ、 そして廃食油はBDF(バイオ・ディーゼル・フュエル)に加工し車を走らせるという、 再生可能な「畑の油田」で夢が広がる「菜の花プロジェクト」の活動の話をうかがいました。

第3回(第20回環境総研講座)

6月30日(土)、城東区・鶴見区・旭区共催、都島区後援事業として、 本学鶴見学舎において、アトリエ「花」フラワーデザインスクール主宰の 西尾知春氏にお越しいただき、 「野の花をより美しく飾る」と題してフラワーアレンジメント実習を 行ってもらいました。 講師の西尾先生がもって来られた草花と、 鶴見学舎のガーデンで受講生が採取した草花等を使って 各自それぞれ作品を作りました。

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OSIES News 人と環境 No.6 p.4 (2007)

環境保全活動を行うNPO・NGOやボランティア団体を紹介するコーナー

『シギ・チドリの楽園づくり』にむけて
大阪湾岸の埋立地に湿地を復元し維持する
・・・「NPO法人南港ウェットランドグループ」

NPO法人南港ウェットランドグループ 髙田 博



湿地やシギ・チドリといった言葉は耳慣れないと思います。 湿地(Wetland)は、簡単に言うと革靴では入れないような環境で、 田んぼ、池、湖沼、河川、干潟などです。 とくに、海と陸の接点にある干潟は生きものの宝庫で、 シギやチドリの仲間の多くは、干潟の生活に適応し、 浅い水の中や泥の上を歩き回って餌を探します。 彼らは、夏にシベリアなどの北極圏で子育てをし、 冬は東南アジアやオーストラリアで過ごします。 そのため、春には北極圏へ向けて、 秋には南へ向けて1万キロあまりの長い渡りをします。 彼らが生きていくには、子育てをする繁殖地、冬を過ごす越冬地、 渡りの途中でエネルギーを補給する中継地で、湿地という環境を必要とします。 日本・韓国・中国などの沿岸部の湿地(とくに干潟)は 彼らにとってかけがえのない場なのです。

大阪南港野鳥園(1983年開園)は埋立地の中に新たにつくられた干潟です。 現在、私たちの住む大阪に、シギ・チドリの中継地となるような干潟はあるでしょうか。 淀川下流、大阪南部の小さな川の河口、大阪南港野鳥園などに わずかに残っているにすぎません。 私たちNPOは、この野鳥園で様々な活動をしています。 その核となっているメンバーは、ここでの湿地づくりと保全に10年以上も かかわっている人たちです。

大阪南港野鳥園から少し離れた所に住吉大社があります。 昔はその前が海で、遠浅の砂地の干潟が広がっていました(「住吉浦」と呼ぶ)。 ここは、渡り鳥の中継地としてはもちろん、 その景色のよさや潮干狩りの行楽地として大坂町民に親しまれた所でした。 しかし、住吉浦は貯木場となり、その前の海は1000haの広大な南港埋立地となりました。 シギ・チドリなどの渡り鳥の生活範囲は、 住吉浦から南港埋立地(浚渫土を入れた所にできた湿地)に 移っていかざるを得なくなり、大阪人の生活もどんどん海と隔絶されていきました。

今から約40年前、私の同級生や先輩らが、埋立地の中に渡り鳥の保護区をつくろうと、 「南港の野鳥を守る会」という市民団体をつくり、 大阪市への陳情、街頭署名など地道な活動を行った結果、 1971年に大阪市は、埋立地に大阪南港野鳥園をつくることを決定しました。 私どもの活動は、この40年前からの目標である『シギ・チドリの楽園づくり』を 受け継いでいます。 1983年に開園してから現在にいたるまで、私どもがボランティアで実施してきた 生きものの継続調査や環境監視に基づいて、 様々な手入れや行政への改修要望の結果、 2005年には目標にほぼ近い湿地環境となり、 シギ・チドリに安住の地を提供できるまでになりました。 また、2006年からは野鳥園の指定管理者として運営にかかわり、 私どものメンバー2名がレンジャー(専門指導員)として常駐しています。

2001年環境省の「重要湿地500」に挙げられ、2003年日本で6番目(世界で32番目)の 「東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」登録地 となった南港野鳥園は、シギ・チドリの渡来地としてだけでなく、 湿地生態系に配慮された施設として内外から注目を受けるまでになってきました。 南港野鳥園は、海辺にあって、渡り鳥や多くの湿地の生きものに出逢え、 また昔から市民に親しみのある西に開けた大阪湾の風景に逢えるという、 地元の住民や大阪市民にとっては今や貴重な財産というべき所です。

南港野鳥園での活動において、 私たちは、1) いつまでも渡り鳥が利用でき、 たくさんの生きものが生息できる湿地にするための調査を、 市民や行政や研究者と協力して行う、 2) 野鳥園の湿地を通して、湿地の大切さを市民や子供たちに伝える、 3) 市民とともに湿地を大切にまもり育てていく中で、 次世代の担い手をたくさん育てていきたいと考えています。 野鳥園に来られた皆さんが、何かを感じとって帰ってもらえるように、 そして、何よりも市民自らが自主的に湿地の保全活動に参画したいと思えるような 野鳥園を目指したいと思います。 とは言っても、自然が相手ですからぼちぼちやっていきます。 野鳥園の情報は、私どもがサポートして作成しているHPをご覧ください。
南港野鳥園のホームページ:http://www.osaka-nankou-bird-sanctuary.com/

(NPO法人南港ウェットランドグループ 髙田 博)